シミュレーションの奥深さ(1)

計算機シミュレーションで判ってきた事は、一見複雑に見える現象の根底にも、案外、簡単なルールがあるという事である。これは、将来が予測できるという事ではない。計算は出来るけど、予測はできないのである。

Mathematica を開発した S. Wolfram の講演は面白かった。 Wolfram は、私に影響を与えた人物の一人である。もう15年ほど前になると思うが、雑誌(アスキー?)に、Wolfram 氏のインタビュー記事(相手は山形浩生氏?)が載って、興味を引かれた事がある。
http://www.ted.com/talks/lang/jpn/stephen_wolfram_computing_a_theory_of_everything.html
http://cruel.org/jindex.html

今回の講演とほぼ同じ内容、つまり方程式ベースの自然観から、コンピュータプログラム(計算ルール)をベースとした自然観に移行しようという話であった。 例えば6角形の雪の結晶を、簡単なプログラムで再現する事が出来る。方程式よりも、計算ルールの方が、記述できる領域が広いのである。

さらに、そのルールをいじっていると、結果に不規則性が現れて、未来が全く予測不能になるのである。これは、「決定論的カオス」とも呼ばれるが、我々の身の回りの自然界には、案外このような現象が沢山ある。 我々の存在自体がそのようなものであるし、貝殻の模様とか、樹木の枝振りとか、アリの足跡とか、あらゆる多様性の奥には、簡単な計算ルールが潜んでいる可能性が高いのである。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%82%AA%E3%82%B9%E7%90%86%E8%AB%96
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%9E%E3%83%88%E3%83%B3

以前、Mathematica を使って、光ソリトンの計算をしていたのであるが、非線形方程式を数値計算する事で、理論では予測出来ない現象が再現できたりする事はあった。ただし、結果は想定の範囲内というか、驚くべき多様性を生み出すものではなかった。光海底ケーブルが機能しているのは、そのためである。
http://www.asahi-net.or.jp/~ix6k-smur/soliton.html

工学では(科学でも)従来、このような多様性は、余り活用されてこなかった。 A->B というような因果律が明確なシステムでないと、怖くて使えないからである。また現象が再現できないからである。 因果律が明確な現象のみを抽出して、応用して来た事が、急速な科学技術文明の発達をもたらした。 一方、自然界は、この多様性を大いに活用している。 ここに、人間の創造と、神様の創造との本質的なコンセプトの違いが存在するのである。