シミュレーションの奥深さ(2)
株取引のデイトレードとスイングトレードの違いも、カオスの考え方を導入すると理解しやすい。短期予測を利用するのがデイトレで、アトラクタの有界性を利用するのがスイングである。
元物理学会会長の佐藤文隆先生が、最近、力学の教科書を書かれたそうで、その「章末問題」について、原因と結果を逆にした方が現実的だと書かれていた。ただ、こういう事が出来るのは、因果律が明確な場合だけで、初期条件が少し違っただけで、結果が全然違ってくる「カオス」な現象も、身の回りにはたくさんある。むしろその方が一般的であろう。
http://jein.jp/blog-sato/451-blog-23.html
我々が日常的に触れる現象で、この典型と思われるのが株式市場の動きである。株価がランダムウオークなのか? それとも何らかの非線形構造(カオス)が隠れているのか? は議論の分かれるところである。トレーダーは、その背後に何らかの規則性が隠れていると信じて日夜トレードに勤しんでいる訳である。株価の変化を一日眺めていても飽きないのは、iTunes のビジュアライザ同様、規則性と多様性を併せ持ったカオスであるからだろう。
カオスでも「リヤプノフ時間」と呼ばれるような、短期間であれば予測できるので、これを利用するのがデイトレードである。したがってデイトレでは順張りになる。 一方、カオスは一般にアトラクタを描くが、アトラクタは有界な領域をぐるぐるしているので、これを利用するのがスイングトレードという事になる。スイングではアトラクタの特定地点で待ち構えている訳であるから、逆張りになる。
http://aomori.cool.ne.jp/akinee/other/ota/chaos9.html
http://www.youtube.com/watch?v=0WJFyImA3Aw
ただボラティリティーなどは常に変化している訳で、ノイズも多いから、きれいなアトラクタを描こうとすると、それなりの工夫が必要である。なぜ有界なアトラクタを描くかというと、「短期資金量保存則」と名付けたが、一日とか、一週間とか、短期で動いている資金量が、ほぼ一定と考えられるからである。 カオスというのは、ある種の制約条件によって発生している。
株価の解析だけでなく、一見複雑な現象の背後に潜んでいる規則性、非線形構造、多様性発生メカニズムを見いだす事は、今後の科学研究の主流になるだろう。これまでは因果律が明確な現象にばかり注目し過ぎていたと思う。世界はもっと広い。
ただiTunesのビジュアライザの生成アルゴリズムを探るのと同様、難しい仕事になるに違いない。従来の科学は、検証、追試により因果律を積み上げてきたわけであり、それが不明確となると根本的な方法論の見直しが必要となるだろう。でもまあ、保存量とか、確率振幅とか、フラクタル次元とかで表現する事は可能だと思う。
「物みなの底に一つの法ありと日にけに深く思い入りつゝ(湯川秀樹)」