資本主義2.0とトレーダーの役割

エコノミストの水野和夫氏と、宗教学者島田裕巳氏による、「資本主義2.0」は、「Web2.0」 に劣らず、重要な視点を提供していると思う。
http://www.amazon.co.jp/dp/4062147165/

水野氏が指摘するのは、1995年に世界は変わったという事であり、情報化と国際化が進み、信用創造手段が多様化し、実物経済から金融経済の時代、労働でオカネを稼ぐ時代から、資本で稼ぐ時代に変化したという事である。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BF%A1%E7%94%A8%E5%89%B5%E9%80%A0

世界のマネー(金融資産)は、1995年に63.4兆ドルであったのが、2006年には151.9兆ドルに膨らんでいる。一方、世界の商品市場の年間生産額は、約10兆ドルで、マネーが実物経済を振り回すようになっている。(p.168)

その一方で、人間の労働の価値はどんどん低下し、非正規雇用の自己破産が増加している。より少ない労働力で同等の仕事ができるよう、自動化や情報化を進めてきたのであるから、社会の成長が止まれば、余剰労働力が溢れるのは当然の理である。
http://www.asahi.com/job/news/OSK200809040036.html

オカネがリアルの世界から、バーチャル(マネー)の世界に吸い上げられてしまって、リアルの経済活動が低下している点に問題がある。島田氏によると、かつては宗教が、オカネをリアルの世界に引き戻す役割を果たしていた。宗教が余剰資金を吸い上げ、教会建設や社会福祉活動を通じて、リアルの世界に引き戻していた訳である。(p.120)

ここで思いつくのが、トレーダーの役割である。トレーダーの存在意義として、リスクをとって市場に流動性を提供する事などと言われるが、もっと積極的に、オカネをバーチャルの世界から、リアルの世界に引き戻す事ができれば、経済活動に寄与する事になる。
http://nikkei225s.blog105.fc2.com/blog-entry-33.html

世界のマネーは、GDPの3.2倍に達するから(p.112)、その1%をリアルの世界に引き戻すだけで、経済活動は3%増加する事になる。もちろん、相場で稼いだオカネをリアルの世界で使ったり、寄付したりする必要があり、口座に貯め込んでいるだけではダメである。

トレーダーという仕事が、どの程度の雇用を生み出すかは不明であるが、マネーの規模と成長率を考えると、案外、期待できるのではないだろうか? もちろん、市場から確実に資金を引き出す技術や、必要以上に引き出さない倫理観が要求される訳であるが。それ以外に、オカネをバーチャルからリアルに引き戻す方法があるだろうか?